宜蘭クレオール

台湾宜蘭クレオール(林愷娣)

宜蘭クレオールは日本語とオーストロネシア語族のアタヤル語との言語接触によって生じた言語です。台湾の東北部にある宜蘭県の四つの村、東岳村、寒溪村、金洋村、澳花村で話されています。四つの村に方言差があります(真田・簡2008)。  宜蘭クレオールは(1)に示すように、文法構造は日本語をベースとしており、SOV語順(cf. アタヤル語はVSO)で、文法形態素も日本語に由来します(s-ta「した」;する-PST)。一方、アタヤル語由来の語彙 bonaw「ピーナッツ」も取り入れていることがわかります。さらに、(詳細不明だが)アスペクト的意味を持つ mo(日本語の「もう」由来)など、日本語由来でありながら、日本語にはない特徴を示す形態素も数多く見られます。 世界的に見て、アジア系言語をベースとするクレオールはそもそも少ない上で、日本語を上層言語としている点でさらに珍しい。一方、この言語は下の世代に継がれず,1980年代以降生まれた世代は宜蘭クレオールを話せなくなり(真田・簡2011)、今世紀中に消滅する可能性が高いと言われています。

(1)


宜蘭クレオール澳花方言(以下、澳花方言)は宜蘭県澳花村(Aohua Village)に話されているバリエーションです。図1で示すように、澳花村は宜蘭県の南部にあります。澳花村内の地理情報は図2で示されている。

図1: 宜蘭県澳花村の位置(Chien & Sanada 2010)



図2:宜蘭県澳花村の地図(Lin 2022)
澳花村には大濁水溪という川が流れているため、当地の人々は自分の村をdayraksuyと呼んでおり、澳花方言のことをdayraksuy no hanasiと呼んでいます。澳花方言の特徴としてストレス体系に複数の要素が効いていることなどが挙げられています(Lin 2022)。具体的に言うと、語源と語彙の音節数によりストレスが違う規則に適用させられています。アタヤル語由来の語彙だと語末音節に固定されている一方、日本語由来の語彙において、2音節語と3音節語の規則は異なっています。詳細はLin (2022)に参照されたい。


図3:宜蘭澳花村の風景(筆者撮影)

参照文献

Chien, Yuehchen and Shinji Sanada (2010) Yilan creole in Taiwan. Journal of Pidgin and Creole Languages 25(2): 350-357.
Lin, Kaidi (2022) A basic description of Yilan Creole phonology: with a special focus on the Aohua dialect. Master’s thesis, Kyushu University.
真田信治・簡月真 (2008)「台湾における日本語クレールについて」『日本語の研究』4(2): 69-76.
真田信治・簡月真 (2011)「宜蘭クレオール」『国語研プロジェクトレビュー』3(1): 38-48.

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